朝。待ちに待った───主に衣がだが───須賀の来訪する時間だ。
「きょ〜たろ〜っ!」
須賀は来るなりいきなりテンションが最高潮になっている衣と出くわし、面食らったようだ。
何かあったのかと目で一に問いかけるが、一はそれに対し何かを返すことはできなかった。
衣に腕を引かれ、いつも通り衣の部屋へと連れて行かれる須賀。
既に定位置となっているテレビの前のポジションに、須賀は腰を下ろす。衣はそれにべったりとくっつくような形で寄りかかる。
「ち、近いって衣」
「む〜。今日は大事な話があるから、なるべく近くにいて欲しいのだ」
大事な話。一は思わず息を呑んだ。
昨日の今日で、もう!? 信じられないほどの決断力だ。
恋をすると人は変わると聞くが、これほどまでに積極的になってしまうのだろうか。
あたふたとする一の様子など意に介すこともなく、衣は満面の笑みを携えている。
「大事な話?」
聞き返す須賀。
衣は次の言葉を紡ぐために、大きく深呼吸をする。きっと緊張しているのだろう。
「こ、衣には……その、好きな人が出来てしまったのだ」
「え? そ、そうか……そりゃおめでとう……?」
須賀は困惑した様子で首をかしげている。
「俺に言うってことは、相手は俺の知ってるヤツってことか?」
「……知ってるも何も、今衣の目の前にいる」
須賀はゆっくりと一の方を見る。
いやいや、それはないだろうと手を振って否定しておく。お約束過ぎる。
「……俺!?」
「そ、そうだ。衣はきょーたろのことが好きになってしまったのだっ!」
須賀は驚いたかと思った矢先、頭を抱えて顔をしかめた。
一にもその心境は何となく分かった。またかという思いだろう。
「その……何で俺のことが……その、好きなんだ?」
「分からんっ。分からないが、一緒にいるとどきどきして、落ち着かなくなる。もっと一緒にいたいと思う。そういうのを恋だと聞いた」
「そ、そうですか……」
須賀もさすがに恥ずかしくなったようで、衣からふいと顔をそむけた。
「め、迷惑だったか? 衣がきょーたろのこと好きになることは、よくないことだったか?」
「い、いや迷惑だなんて……。人が人を好きになることに、悪いことなんてないって」
「そうか! ならば衣は、きょーたろのことを好きなままでいていいのだなっ」
「あ、ああ……」
とうとう居たたまれなくなったのか、須賀は立ち上がり、一のほうに寄っていく。
「モテる男は辛いね」
「馬鹿言うなよ……」
須賀が自分から離れるや否や、衣も一緒に立ち上がり、須賀の背中にひっつくような格好をとる。
まるで身長の違う二人は、まるで親子のようにも見えた。
「きょーたろ! きょーたろも衣のこと、好きか?」
「うっ……それは」
「どうなんだ? 恋人になるには、好きあわなきゃ駄目だって聞いた。片思いではいけないと……」
衣は途端に悲しそうな顔になる。
須賀は散々迷った挙句。
「ああもう! 好きだよ! 嫌いなわけないじゃないかっ!」
そう言って衣の頭を乱暴に撫で回した。
それを聞いて嬉しそうに笑う衣。つられて須賀も笑顔を浮かべる。
「(恋人かぁ。はは、すごいなぁ衣は。自分の気持ちを素直に言えて)」
何故だか一は、その光景を見ていると胸の奥が痛くなるのを感じた。
きっと、衣と須賀が特別な関係になったことで、自分一人が他人になってしまったような、そんな疎外感のせいだろう。そう一は思った。
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思いを吐露して、衣はすっかりと見も心も軽くなったのか、今日はいつも以上に須賀にべったりであった。
背中から抱きついたり、いきなり顔を覗き込んだり、触ったり、嗅いだり……。
恋というのは本当に盲目になるらしい。一がいるにも関わらず、衣はまるで須賀と二人きりであるかのように、自分がいかに須賀のことを好きであるかのアピールをしていた。
「(目の毒だよ……)」
見ている一としては、なんともいたたまれない。
隙を見て逃げ出したかったが、ゲームを一旦始めてしまった以上、そうすることは難しかった。
結局、夕方、須賀が帰る時間まで、一は衣の部屋から動けなかった。
「……そろそろ時間か」
須賀が立ち上がり、帰り支度を始めると、衣がその背中にしがみついた。
「……もう帰っちゃうのか?」
「ああ、っていうか、いつも通りの時間だぞ」
「う〜。きょーたろは衣と一緒に居たくないのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ならっ! 今日はここにいて欲しいぞ!! 思いをぶつけて、そして実った大切な日くらい、一緒にいて欲しい……」
須賀は困った顔で一を見る。
以前は大雨で仕方なくここに留まったが、今日は違う。
きっと泊まるのは衣の部屋であり、そのことは特別な意味を持つ。
そんなこと透華が認めるはずもないだろう。
「残念だけど……」
「いいのではないでしょうか」
「は、萩善!?」
「はい、いつもリアクションありがとうございます」
例のごとく影のように現れた萩善。
その口から出たのは、意外な言葉だった。
「透華お嬢さまには内密に行いましょう。元々衣お嬢さまには衣お嬢さまの権利がございます。この部屋に限って言えば、衣お嬢さまの言葉を覆せるものはいないでしょう」
「で、でも……それってまずいんじゃ?」
「さて、私にはこのまま彼を帰らせたあとの衣お嬢さまの方がまずいように思えますが」
確かに泣きじゃくる衣をなだめるのは難しいだろう。
特別な日だと言っている以上、他の代替は利かないだろう。
「一……衣にとって、今日は特別な日なんだ。どうか、目を瞑ってくれないか?」
「……分かったよ。透華には内緒だね」
「う、うむ! それでこそ一だっ」
また、一の胸がずきりと痛んだ。
一はそれに気づかぬフリをする。
こんなもの、きっとすぐに感じなくなるだろうから。
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食事をすませ、さっと風呂に入り、見つからないようにまた衣の部屋へと戻る。
須賀がその任務を達成するためには、一の協力が不可欠だった。
透華の生活リズムを熟知している一にとって、透華の目を盗むことはたやすいことだ。
「しっかし、どうしてこうなっちまうんだか……」
須賀が呟いた。
衣が風呂に行っている間、部屋には一と須賀の二人しかいない。
「モテモテでいいじゃない。両手に花どころか、四方八方に花畑だよ」
「馬鹿言うなよ……。俺は別に、下心があって衣と遊んでたんじゃないんだぞ」
「知ってるよ。透華とのことだって、きっと須賀の人の良さがああいう結果を生んじゃっただけなんだろうね」
雨が降っていたら傘を貸す。疲れていたら肩を貸す。そんなことが積み重なって、きっと今の須賀になるのだろう。
その優しさは、一も体感している。だから分かる。
「男だしさ、ハーレムとか憧れたりするわけなんだけど……実際、キツいなぁ」
「贅沢な悩みだ、はは……」
衣がいないだけで、心の痛みは何故か消え去っていた。
どうしてなのか、一は考えたくなかった。
「そうだ、この前のカードさばきだけどさ」
「ああ、そういえば……」
遊園地に行く前だったか、須賀は一にカードさばきを披露していた。
つたない手つきで、ぼろぼろとカードを落とすそのさまを、一はすぐに思い出せた。
「見てろよっ。ほらっ!」
須賀の手からカードが流れるようにめくり上げられる。
右へ左へ、次は階段のように上から下へと大げさな降下。
指で弾いたカードが、見事に空中でキャッチされ、再びカードの輪の中に帰っていく。
驚きの上達だった。指使いはあの時とは比べ物にならないほどに冴えており、失敗する展開を想像させないほどだ。
「お前……どうやってこんなに上手くなったんだ?」
「家に帰って、ちょこちょこやってたんだよ。結構苦労したけど、何か面白くなってきてさ」
喋りながらもカードをさばき続ける須賀。
素人が短期間でここまで上手くなるなんて、相当に練習を積んだのだろう。
「まったく、そんなこと出来たって、宴会芸の一つにしかならないよ」
「そんなことないって。おかげでこうやって、国広と話せてる」
「───バ、バカ! 恥ずかしいこと言うなよ!!」
思わず怒鳴りつけてしまった。
途端に須賀の指先は狂い、カードが無残に床へと落下していく。
「あちゃー」
「ご、ごめん」
「いいっていいって。動揺しちゃったのは俺なんだし」
言いながらカードを集める須賀。
一も一緒になって手伝う。
「……もうこんなことしなくたって、普通に話せるだろう」
「そうだけどさ、途中でやめるのは収まりが悪いし……!」
同じカードを取ろうとして、須賀と頭をぶつけてしまった。
「たた……。ちゃんと前も見なよ……」
「悪い悪い」
───と、目を上げれば、そこには須賀の顔。
ふいに鼓動が早くなる。まるで百メートルを全力疾走したかのようだ。
ああ、そうか。一は心の中で頷いた。
「(そうだ、この位置を……数日前まではボクだけがいたこの位置を衣に奪われて、それが嫌だったんだ)」
悪態をつくところから始まって、少しずつ深めていった須賀との友情。
気づかないフリをしていたのだ。仲が良くなったと言うことは、すなわち心が近づいたと言うこと。
恋、そうだこれこそが恋なのだ。衣に言っておきながら、自分もついぞ知らなかった。恋をすると、人はこうなるんだ。
透華のことや衣のことを考えると、きっと今の自分はひどく汚い。人のものを横からかっさらっていくようだからだ。
けれど、けれどもだ。盲目、そう盲目になってしまう。目の前に好きな人の顔があって、それで平静を保っていられるなんて、誰にもできやしない。
ああ好きだ好きだ。心の内にしまっていた感情があふれ出してくる。
いつからだろう。分からない。案外、最初に二人で歩いた時からかもしれない。
交わした言葉の一つ一つは他愛のないものだけれども、積み重なれば揺るぎのない愛となる。
簡潔に言おう。ただただ、目の前の人が好きで好きで仕方がないのだ。
「あの、さ」
「ん? どうかしたか、国広……っ」
「ボク、お前のこと好きだから」
「え……!?」
返事なんて聞きたくなかった。
だから塞いだ。言葉を使うもの同士を密着させて。
初めての口付けだった。知識だけの、思いだけが詰まったキス。
呼吸をするのも忘れて、じっと唇と唇を重ねあった。
時間の流れが緩やかに感じる。どくんどくんと、鼓動が重なって聞こえてくる気がする。
ふっと、唇を離す。
目の前にあったのは、何とも間の抜けた顔の男の顔。
それは自分が最も好きな人の顔だった。
「い、痛くなかった?」
「あ、ああ……。って、お前、そんなことよ───」
「よかった、ならもう一回しよ」
再び───今度はついばむように短く何度も口付ける。
次第に唇が開いていき、唾液が互いの唇に橋をかける。
須賀は諦めたように動かない。だから、何度でも何度でも繰り返す。
口付けを交わすたびに湧き上がってくる愛おしさは何だろう。もっと強く抱きしめて、そしてもっと深く繋がりたいと思うこの感情は何だろう。
「───好き、だよ」
「……知ってるよ」
その時、がちゃりとドアが開く音が聞こえた。
「……おお!? ふ、二人とも、一体何をしているのだ?」
「こ、衣!」
須賀が驚いて、一と距離を置こうとする。
けれど一は須賀のことを逃がさなかった。どんと手を突き出して、須賀を後ろ向きに転がす。
「衣、ボクも須賀のことが好きなんだ」
「そ、そうだったのか?」
「うん、だから、こうやって……」
仰向けに寝転がる須賀にまたがって、上からキスの雨を降らせる。
「お、おお……。接吻をそんな風に何度も何度も……」
興奮と関心が入り混じったような衣の様子を見て、一はにこやかに微笑みながら手招きをする。
「衣もやってごらん」
「うむ!」
須賀が何か言いたげな表情をしたが、すぐに諦めたように力を抜く。
衣は須賀の傍らに座り込むと、大きく息を吸い、そして───。
「っっ!」
「ぐあっ!」
思いっきり須賀の顔に突っ込んだ。
手加減なしの頭突きに、さすがの須賀も悲鳴を上げた。
「こ、衣っ! 何でそんな勢いつけるんだよっ」
「む……う、すまん、勢いが大切だと思って……」
お互いにぶつけた場所をさすりながら、見詰め合う二人。
ムードもなにもあったものではないが、そんなおどけた空気のほうが、二人らしいと一は思った。
「ほら、もう一回やってみよ。衣」
「うむ、今度はゆっくりとやろう」
再び息を吸う衣に対し、一はやんわりと『キスの間は息を止めていなくてもいい』ということを伝える。
衣は驚きながらも、ほっとした表情になった。息を止めていられるかどうかが不安だったようだ。
「で、では仕切りなおしをするとしよう」
「……突っ込むなよ?」
「わ、分かってるっ」
衣の長い髪が須賀の顔にかかる。
むずがゆそうな須賀の表情は、すっかりと衣の髪に隠れる。
やがて、小さな水音が聞こえた。続けて、二度、三度とその水音は繰り返され、その度に衣の頭は須賀に密着していく。
しまいには殆ど離れることなく、密着したままの状態でのキスの応酬となった。
ぴちゃぴちゃと耳に残る音が響く。その度一は、衣の髪の下で行われているのであろう情事に胸を高鳴らせてしまう。
「……っふはぁ」
ようやっと顔を上げた衣。
顔は真っ赤で、目はとろんとしている。
「どうだった? 衣」
「んむ、何というか……いいものだな」
満足げに頷いた衣。それに合わせるように、一の下から須賀の弱りきった声。
「……そろそろ俺を解放して欲しいんだが」
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先ほどの情事から数分が経った。
三人は言葉を紡ぐのに躊躇い、部屋には妙な空気が流れていた。
「……その、だな」
須賀が口を開く。
「状況を整理するとだ……つまりは二人とも……」
「そうだよ」
言葉の終わりを待つ前に一が口を出す。
「い、いきなりで悪かったと思ってるけど、しょうがなかったんだ」
改めて言われると恥ずかしいようで、須賀は一から目を逸らした。
逸らしたほうには衣がいて、須賀に向かってにっこりと笑みを浮かべている。
「一日の間に二人に告白されるとは、男冥利に尽きると言うものだな。きょーたろ」
「ンな簡単に言っていい話かよ……俺の初めて……」
この家、龍門渕の家にいながらにして、透華の思い人に二人して攻め入るなど、何とも常識はずれなことだ。
一は透華に仕える身でありながら、その信頼を裏切るような行為をしてしまったことになる。
「こ、後悔はしてないよ」
「て言っても……」
「だって……だって、我慢できなかったんだ。目の前に好きな人の顔があったら、もう何も考えられなくなって……」
「ああもうっ! 恥ずかしいからそういうこと言うなっ!」
取り乱す須賀を見ていると、一は自然に笑顔を浮かべることができた。
「衣にはよく分からん。一体きょーたろは何を取り乱しているのだ?」
「だ、だって、ここは龍門渕の家な、わけだろ? つまり……」
「ふむ、透華のことか」
「ああ、そうだよ」
「……ふむ、そうだな。透華もきょーたろのことが好きなのであれば、この会合に是非とも召集せねばなるまい」
何を思ったか、衣は立ち上がり、透華の部屋へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待ってってば衣! いくらなんでも、透華にはショックが強すぎるよっ!」
一の制止の声に、首をかしげる衣。
「好きあうもの同士、何を隠すことがあろうか。衣は透華の友だ、隠し事などしたくはない」
「それは……ボクだって」
「大丈夫だ。透華もきょーたろのことが好きで、衣たちもそうだ。だから大丈夫だ」
「り、理由になってないよね?」
「……同じ人間を好きになった者同士なら、惹かれた理由も分かるはず。透華もきっと納得するだろう」
「その理屈はどうかと思うけど……」
一はどうするべきか迷った。
このまま隠しながら須賀と会うのは、中々に困難だろう。
夏休みが終われば、須賀がこの家に来ることは殆どなくなってしまうだろう。そうなれば、会う回数は激減する。
一には家の仕事があるし、衣だって一人でいつまでも出歩いていいわけではない。
「須賀……」
「お、俺に聞くのか」
「当たり前だろ、当事者なんだし」
須賀は少し考えるそぶりを見せ、すぐに。
「言ってみるか」
「本気!?」
「な、なんだよ、国広が聞いたんだろ」
「そうだけどさ……透華だよ?」
「知ってるって。どうせコソコソしててもバレるんだ。それなら最初から言った方がいいだろ」
須賀はあっさりと言い切った。
衣もその言葉に大きく頷く。
「衣たちには何もやましいことをしていないのだ。ならば、堂々と宣言すればいい!」
衣の強い言葉に、一はようやっと決心がついた。
透華のことを言い訳にして、逃げ腰になってはいけない。向かい合おう。
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透華の部屋の前に立つ須賀。
その後ろに控える一と衣。
神妙な面持ちで、須賀は扉を二回ノックした。
「どなた?」
「あ……俺、須賀京太郎です」
透華の声に動揺しながらも、須賀は続けた。
「話したいことがあって」
「はぁ……。いいですわよ」
がちゃりと部屋の扉が内側から開けられた。
「……あら? 一に衣まで一緒でしたの?」
「うん、ボクたちにも関係のある話だしね」
「ふぅん……?」
首をかしげる透華。
「それで、何の用ですの?」
「透華! 衣には好きな人が出来たのだ!」
「ぶっふ」
透華がいきなりよろめいた。
慌てて須賀が駆け寄る。
「だ、大丈夫ですわ。不意をうたれただけですから」
透華は気丈にも、自分の足で立つことを選択したようだ。
とはいえ、その心もいつまで続くか……一は意を決し、自分の思いを告げた。
「ボクもなんだ」
「……え?」
「ボクも好きな人が」
「ちょ、ちょっとお待ちください!!」
透華は一の言葉を遮ると、耳を塞いで何かぶつぶつと呟き始めた。
とうとう壊れてしまったかと心配そうな須賀。
そんな心配をよそに、透華は何かから逃れるように眼を瞑り、俯いてた。
「……取り乱しましたわね」
ややあって、透華は意識を取り戻す。
そこには濃い疲労の色が見えた。
「いつかはそんな日が来るかと思っていましたわ。二人とも、わたくしの友である前に、一人の女ですものね」
「……心配させちゃったかな」
「ちょ、ちょっと驚いただけですわ。まさか二人いっぺんに来るとは思いませんでしたし」
「ボクたちもびっくりだよ。ね、衣」
「ふむ、衣としては、なるべくしてなったようにしか思えぬが」
さぁ本題だ。
一は身構え、衣は普段どおりに仰々しく腕を組む。
「……それで、お相手はどんな方なのかしら?」
「一年生の麻雀部員。背は男子にしては普通。髪は金」
「ふむふむ」
「頭はあんまり良くなさそうに見えるけど、心根の優しい……いい人だよ」
「話だけ聞いていると、とてもよさそうな物件に聞こえますわね。それで、衣のほうは?」
「うむ聞くがいい。衣の友にして、遊ぶことの楽しさを教えてもらった師でもある。時に手を引き、時に肩を貸し、そして床に枕を並べる間柄だ!」
「と、床……? それにしても、衣の友達……。でしたら、わたくしも知っているはずですわよね」
「もちろんだ! 透華も知っているし、一も知っているぞ」
「ふぅむ……」
透華は考え込んでしまった。
「じゃあヒント。ボクと衣の情報は、一人の男子のことを言っているよ」
「へぇ……一人の……。……ってぇ!? 二股じゃありませんの!?」
「細かいところはおいておいて、さあ誰でしょう」
「む、むぅ……。一年生で……衣の友達で……金髪で……」
みるみる内に透華の顔色が変わっていった。
ここに何故須賀がいるのか、ようやく察した様子だ。
衣は含み笑いをし、一もまたつられて笑いをこぼした。
「ま、ま、まさか!? まさかまさかまさか!?」
「え〜っと、そのまさかで……俺でしたー! なんて」
「……ぶっふぁ!」
「と、透華───!?」
とうとう透華は鼻血を出してあお向けに倒れてしまった。
どうやらあまりにも刺激が強すぎたようだ。
「す、須賀! ティッシュティッシュ!」
「お、おう!!」
「衣はどうすればいい?」
「お、お湯汲んできて! じゃあなくて、蒸しタオル!!」
「分かったぞ!」
波乱の幕開けであった───。