案の定、なのはは食事を部屋まで持ってこさせたり、肩を揉ませたり、仕事を肩代わりさせたりと、自由奔放な姿を披露していた。
 おかげで、こうして何の支障もなく話をすることが出来るというわけなのだが……人としてどうなのかと思ってしまう。

「フェイトちゃんの過保護は確かに目に余るからね〜。昔は私にべったりだったのに、保護者になってからは急にお姉さん顔しやってるし」

「何故あそこまで過保護になれる? エリオとキャロ、二人とも子供とはいえ、すでに我々と同列で仕事をする仲間だ。だというのに……」

 特にエリオに関しては顕著だ。今日だけでなく、以前からそういった節は見られていたが、このままではエリオも辛いだろう。

「思うに、自分がまだ二人を守る力があると考えているから、ああやって保護者でいられるんだと思うの」

「逆に言えば、二人が弱いからテスタロッサが前に出て過剰なほど守っているという訳だな」

「うん、だから……今はエリオだよね。エリオがすっごく強くなって守る必要がなければ、もう過保護じゃなくなるんじゃないかな」

「なるほど。しかし、エリオはお前の訓練に加え、時たま自主的に特訓をしているようだ。いきなり強くなるというのは難しいのではないか?」

 何度か私と模擬戦をしたこともある。成長も早く、教えたこともすぐに吸収していくため、こちらとしても嬉しい対戦相手だ。

「そうだね。普通にやってたらダメだね。だから、ちょっとした裏技を使うよ」

「裏技? どういうことだ」

「まぁまぁ、この天才魔法少女に任せておいてよ」

 果てしなく不安が残るのだが、そう言い切られてしまうと何も出来ない。
 残りのことはなのはに任せ、私はしばらく待つこととなった。





 時刻は午後一時。
 円状になのは、シャマル、ザフィーラ、はやて、そして私が並び、中心にエリオがいる。
 ヴィータ以外のヴォルケンリッター勢ぞろいという、滅多にない光景だ。

「……そろそろ説明してもらえないか? これは、何をしようとしているんだ」

 待ってましたとばかりに、なのはが拳を振り上げる。

「これは私が開発した魔法陣形だよ。簡単に言うと、私たちが持ってる魔力を、エリオに譲渡して強引にエリオを強くするっていうのが、これの役割なの」

「力の譲渡……そんなこと可能なのか?」

「やるのは今日が初めてだけど、効果は期待できるよ。ヴォルケンリッターに加えて、私とはやてちゃんだからね」

「ちょっとずつ分けるだけでも、多分新人たちよりずぅっと強くなれるはずや。うまくいけば、フェイトちゃんと同等に戦えるくらいになるかもしれんよ」

「フェイトさんの行動は、ちょっと行き過ぎてるような気がしましたから、私としては大賛成です」

「俺は出番がもらえるのならなんだってやるさ」

「みんな……」

 どのみち、我が主が参加している時点で、引くことなど出来はしない。
 ならば、この一見無茶な作戦、どうしてでも成功させるしかないだろう。

「あ、あの……フェイトさんのことで色々迷惑かけてしまって、すいません」

 中にいるエリオは、これから自分がどうなるか分からない状況だというのに、割と落ち着いているようだ。

「謝るのなら、強くなってテスタロッサを見返すのだな」

「そうだよ。フェイトちゃんをフルボッコにして、骨の髄まで自分のものにしちゃう気持ちで行こう! それじゃあ……ミッションスタート!」

 なのはの合図で、私たちは一斉に魔力を中心に向かって放つ。
 放たれた魔力は煌びやかな色となり、混じりあい、エリオの持つ魔力の色へと少しずつ変化していく。
 思いのほか、体にかかる負担が大きい。放出しているのはごく一部の力だというのに、その疲労感は実戦以上だ。

「くっ……高町! これはどのくらいやればいいんだっ!」

「まだまだ足りないよ! 放出量十に対して、吸収できるのは一か二くらいだから!」

 となると、本当に相当量の魔力を放出しなければならないようだ。
 剣を振り敵を薙ぐのとは違い、終わりが明確ではないこの儀式は、精神にかかる負担も大きい。
 だが、中にいるエリオのほうが私たちよりも辛いだろう。

「うう……はぁ、何か、変な感じです。体が、広がっていくような……っ!」

 大粒の汗が流れる。十分も経ったのだろうか。こうしてずっと魔力を放出していると、時間の感覚もおかしくなる。

「みんな、ここが正念場や! 誓うんやっ! フェイトちゃんを倒して、機動六課に平和を取り戻すことを!」

「はい! 湖の騎士シャマルはこの力を調和のためにっ!」

「盾の守護獣ザフィーラは守護のためにっ!」

「剣の騎士シグナムは飛躍のためにっ!」

「夜天の主、八神はやては栄華のためにっ!」

「そして……管理局の白い悪魔、高町なのはは征服のためにっ!」

 全員の魔力が大きく揺れ、形を作り出す。
 見るものはそれを何と呼ぶだろうか。波打ち、力強く描かれるその世界を。
 きっとそれは楽園。思いが形作る究極の力は、聖域を生み出したのだ。

「こ、これは……!? 体が軽い、力が満ち溢れてくる!!」

 流れ込む力は確かに届けられたようだ。
 中心にいるエリオから感じ取られる力は、先ほどとは比べ物にならないほどだ。まだ、私たちの魔力の色が残っていて、不思議な輝きを放っている。

「どうやら成功したみたいだね。エリオ、私たちの力はどう?」

「なんていうか……落ち着かない感じです。どこかへ飛んでいってしまいそうな……」

「恐らくはAA……ううん、AAAクラスまで魔力が高まったはずです。一度限界を超えた魔力は、もう下がることはありませんから、ほぼフェイトさんと同列に並んだんですね」

「やったなエリオ。俺たちの分まで、ヤツを叩きのめして来い!」

「そうや! 六課のために叩き潰すんや!」

「はい! 次の模擬戦を見ていてください!!」

 意気揚々と今日の訓練へと向かうエリオを見て、やっと私たちは疲労のため息を吐き出すことが出来た。

「つ、疲れた……。正直、なのはちゃんの案は力押しすぎて辛すぎるわ」

「う……うるさいよはやてちゃん。ふぅ、こうでもしなきゃ強くならないんだからしょうがないでしょ」

「とにかく、後はエリオがテスタロッサとどう戦うかだな。一対一では不安が残るが、新人との連携があればなんとかなるだろう」

「それじゃ、確認のために見に行きますか。ヴィータちゃんに任せっきりにしてるのも悪いしね」

 その場の全員が頷き、疲れきった体を引きずりながら、いざ、決戦の地へと向かう。
 いつの間にかテスタロッサが諸悪の根源のようになってしまっているが、まぁいいだろう。





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