新人たちの戦闘を眺めていた私たちだったが、その余りの様に言葉を失うしかなかった。

「最後に見せたアレは……ライオットフォーム?」

 主のムっとした顔を見るのは久しぶりだ。
 どうやらアレはフェイトにとって最大の力だったらしい。

「でも、ライオットを出すためにはリミッターを解除しないと」

「そうだな、我々にはリミッターがある以上、全力など出せるはずがない」

 強すぎる力を抑制するため、我々にはランクを落とすリミッターがつけられている。
 それはテスタロッサも同じことで、解除するにはクロノクラスの権限が必要となっている。

「もしかしたらフェイトさん、一人だけリミッターがかかっていないんじゃないでしょうか?」

「そやな。どうやってかは知らんけど、リミッターかかってるフリをしてきたのは確かやろ」

「……私はかなり怒っているぞ。どういう理由かは知らないが、自分だけ力を隠し、しかも新人たちに振るうなど言語道断だ」

 本来ならば、あそこでエリオは勝っていたはずだ。いや、その前……スバルとのクロスアタックの時でもだ。
 だというのに、テスタロッサはそれをことごとく打ち破り、最終的に勝利した。

「ちょっと今回ばかりはなのはさんも怒っちゃうかな。少し、頭冷やさしてこようか?」

「なのはちゃん待って。これはエリオたちの問題……うちらが解決しちゃいけんよ」

「ですが、あのままでは……。リミッターのないテスタロッサは、Sランクの力があります。新人たちには荷が重いでしょう」

「ほなら、シグナムが手伝ってあげればいいんやない?」

「は? いえ、しかし先ほど私たちが解決してはいけない問題だと」

「正確には、シグナム以外のうちらや。更に言えば、エリオ以外の新人も関わらんほうがええかな」

「そ、その……言葉の意味が分からないのですが」

 主は少しだけ含み笑いをして、意味深にこちらを見てくる。視線の意味は分からない。

「ま、エリオとシグナムは仲良しでしょ? それに、フェイトちゃんに対しての因縁も深そうだし」

「なのは、確かにそれはあるが……」

「どのみちシグナムだってこのまま見てるわけには行かないでしょ? でも、シグナムがフェイトちゃんと戦っても意味がないんだよ。肝心なことは、エリオがフェイトちゃんを倒すっていうことなんだから」

「……ふむ」

 このまま新人たちがテスタロッサと戦って勝つのは無理だろう。それに、テスタロッサだって模擬戦の相手を何度も引き受けるとは限らない。
 ならば、そのルールに縛られない私がパートナーとなり、エリオを助けるのであれば……。考えとしては悪くない。

「分かった、お前たちの怒り、ことごとくぶつけるとしよう。私とエリオの二人でな」





 少し急ぎ足で、私は模擬戦を終えたエリオの元へ向かう。
 別に焦る必要はないのだが、自分自身、じっとしていられない高揚感でいてもたってもいられないのだ。

「(考えてみれば、テスタロッサと本気で戦うことなどあまりなかったからな。どこまでやれるか……)」

 自分の力量は決して低くないと思っているが、テスタロッサはそれを凌駕する力を持っている。まともの当たれば勝ち目は薄いだろう。
 少しずつ、対テスタロッサ用の作戦を練りながら歩いていると、模擬戦で疲れきった新人たちに出会った。

「あ、シグナムさん!」

 いち早く気づいたスバルが声をかけ、他の隊員も続く。

「随分と手ひどくやられたようだな」

 注意深く見ずとも、目の前には痛々しいまでの傷跡がある。名誉の負傷といえば聞こえはいいが……。

「やっぱりフェイトさんは強かったです」

「はい、四人がかりでも全然歯が立ちませんでした」

 エリオとキャロは気づいていないのだろう。自分の保護者が今もなお強いという事実を、どこか誇りに思っているようだ。

「……うん、確かに強かったわね。でも、ちょっと納得いかないかな、私は」

「ティア、何が?」

「ううん、大したことじゃないの。なんとなく、いつもより苦戦したなぁって思っただけだから」

 ティアナはどうやら少し思うところがあったようだ。指揮を取っているため、相手の動きや力に気づきやすかったのだろう。
 ……この場でテスタロッサのリミッターのことを告げてもいいが、少しだけ良心が邪魔をする。

「エリオ、少し話があるのだがいいか?」

「はい、いいですよ」

 結局、エリオだけに話すことにした。
 私たちはその場を離れ、少し人気のない陰へと移動する。

「この辺りでいいだろう。エリオ、今日の模擬戦で何か感じたか?」

「何か? う〜ん、フェイトさんがすごく強かったってくらいです。連携は結構上手く行ってたのに、決まらなくって残念って言うのもありますけど」

「アレは本来なら決まっていた。……信じたくはないだろうが、今のフェイトには、どうやらリミッターがかかっていないらしい」

「えぇ!? どうしてですかっ!」

 驚きの表情で詰め寄ってくるエリオ。理由など私のほうが知りたいほうだ。
 
「落ち着け、私も先ほど知ったばかりだ。お前のランクはあの時恐らくAAAクラス、フェイトにリミッターがかかっていたとすれば、そのランクの攻撃は弾きようがない」

「……そうですね」

「そして、最後にお前の一撃を弾いたあのフォーム。ライオットフォームというらしいが、アレはリミッターがある状態では発現できない代物だ」

「じゃあ、本当にフェイトさんは一人だけ……」

「ああ、そういうことだ。そしてそれはいかなる理由にせよ、許しがたいことだ。よって、処罰を与えることになった」

「しょ、処罰ですか?」

「ああ、なのはの提案でな。私とエリオ、お前の二人でフェイトを完膚なきまでに叩きのめす」

「……って、えええ!! そ、そんな、無理ですよ!!」

 狼狽するエリオ。表情がコロコロと変わって面白い。

「無理ではない。私とレヴァンティンがいるのだぞ」

「そ、そうですけど……でも、フェイトさんはSランクですよ!」

「ランクなど、一つの目安に過ぎん。重要なのは、その気があるかどうかだ。私はテスタロッサを倒したい。お前はどうだ?」

「ぼ、僕だってフェイトさんに勝ちたいです。せっかく力を貰ったのに、負けて帰るなんて嫌です!」

 引き締まったいい表情をしている。
 一度敗北したことで、より勝利への意欲が沸いたようだ。

「ならば来い。まずは傷を癒した後、特訓だ」

「はい!!」

 私たちは揃い、歩き出す。
 目指す高みはフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。高い壁ではあるが、決して乗り越えられないものではないはずだ。
 行こう、限界を超えて。



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