時刻は午後一時。太陽の光が、まぶしく大地を照らしている。
「ルールなんてものはないよ。フェイトちゃんとシグナムとエリオ、戦意喪失したほうが敗者となる。それだけ!」
主催者気取りのなのはから、簡潔なルール説明が行われ、私とエリオは戦場へと降り立つ。
周囲を完全な防御結界で覆うため、かのユーノにまでご出陣願った辺り、この戦いの大きさが知れるだろう。
「エリオ、絶対に私がそこから救い出してみせるからっ!」
目の前に立つフェイトは、既にバリアジャケットを身にまとい、闘志が満ち溢れんばかりだ。
一方私たちは、緊張しているとは言えない面持ちで、ゆっくりと戦闘準備を整えている。
「シグナムさん、その……また部屋に行ってもいいですか? ゲームの続きが気になって」
「ああ、もちろんだ。だが、勝ってからの話だからな。しばしの間、我慢しろ」
「ふふん、なんかシグナムたち余裕だね」
「ああ、露骨な戦闘意欲は足元をすくわれるし、やる気がなければ力を出し切れない。その中間といったところだ」
「なんかいい作戦でもあるみたいだね。ま、こっちとしてみれば勝ってもらわないと面白くないから、ぜ〜ったいに勝って欲しいの!」
恐らくは賭けでもしているのだろう。なのはが私たちに賭けたという事は、主たちのいずれかはテスタロッサに賭けたのだろうか……。
らしいといえばらしいが、この戦い、最初から賭けになどなっていない。
「安心しろ、私たちが負ける事はありえない」
「随分と強気で結構だね」
「テスタロッサ」
戦闘のために心までも武装したテスタロッサは、こうして見ているだけでも鳥肌が立つ。
赤い目が私を射抜き、握られたバルディッシュで私を切り裂くのだろう。考えただけで凍りつく。
「早く始めよう。早く、シグナムからエリオを解放してあげなくちゃ」
「フェイトさん……」
「待っててね、エリオ。すぐに助け出すからっ!」
「それでは、それぞれ所定の場所についてくださ〜い」
「先手必勝だ。エリオ、素早く勝ちに行くぞ」
「分かりました、シグナムさんっ!」
「レディ……Go!!」
戦闘開始の合図と同時に、私はレヴァンティンと共に飛び立つ。
どうやらそんな奇襲はお見通しだったようで、テスタロッサも空中にて迎撃体勢を整えている。
「はあぁ!」
気合と共に振り下ろした一撃を、バルディッシュが力強く受け止める。
続けて一撃、さらに一撃と繰り出すが、全てテスタロッサの許容範囲を超えることなく、防御されていく。
このままでは埒があかない。私は攻撃を弾かれた衝撃を利用し、後方へ大きく下がる。
「カートリッジロード」
一発分、カートリッジの力を蓄える。なんと言うことはない、ただの保険のようなものだ。
それに合わせるように、テスタロッサは鎌から大剣へとバルディッシュを変化させる。
より一層激しい攻撃が来るという予告だ。
「ふっ!」
まるで空を漂う綿毛のように、しなやかにテスタロッサが迫る。速度は速いが、この程度であればエリオとの実戦訓練で慣れている。
動きとは打って変わって豪快な一撃を、なんとかレヴァンティンで受けとめ、衝撃を殺すために後方へとさらに飛ぶ。
「もっと攻めて来なさいっ!」
それに追い討ちをかけるよう、テスタロッサが迫り来る。振りかざす大剣が光を吸収し、黄金色に光り輝く。
だが、そんな誘いに乗るわけには行かない。打ち合えば力の差は歴然。こちらには長年鍛えてきた技があるというものの、テスタロッサの才能の前では霞む。
大振りな一撃をかわし、大地へと降り、飛び、降りを繰り返す。
「そうやって逃げていていいのかな」
「これも戦略の内だ。構わず斬りかかるがいい」
「残念だけど、もうその必要もないよ」
「何?」
テスタロッサの不敵な笑みが、私の背筋を凍らせる。
ハッタリだろうか。この状況で何かを仕掛けるには、あまりにも時間が短すぎる。
「嘘だと思うなら、ほら、斬りかかってきてもいいんだよ?」
両手を上にして、防御の姿勢を完全に崩すテスタロッサ。
あまりの事態に驚いたが、それだけではいられない。どうするかを決めなければ。
「(ブラフだ……っ! そうに決まっている。この短いやり取りの中で何かを仕掛けることなんて出来はしない!)」
瞬間的に判断し、私はレヴァンティンを大きく振りかぶる。
そして、そのまま大地を蹴り、無防備なテスタロッサの元へと……。
「ブレイクっ!」
目の前が爆ぜた。小規模な爆発が巻き起こり、一瞬、何が起こったか分からなくなる。
「レ……レヴァンティン!」
爆発したのは、レヴァンティンだった。
殆ど原型を留めないほどに散らばり、私の手の中には僅かながらの残滓だけしか残っていない。
「何をした……テスタロッサ!」
「サンダーブレードを小型化して、カートリッジに突き刺した。カートリッジシステムに頼るデバイスは、必然的にそれを核としないといけないから、当然、それが壊れれば全てが終わるよね」
「まさか、最初の一撃の時にっ!?」
「準備する時間は十分貰ってたからね。さ、どうするシグナム? デバイスなしで私と戦うのかな」
油断した。いや、これは万全の状態であろうと見抜けなかった。
カートリッジは爆発的な力を生む代わりに、その部分を破壊されてしまうと機能しないという欠点も孕んでいる。爆発なんてされたら、それこそ外殻ごと吹き飛ぶだろう。
……ともかく、私の武器は消え、目の前のテスタロッサとは圧倒的な力量差が生まれてしまった。
「だが、私とて何も考えていないわけではない。例え最高に不利な条件だとしても勝てるよう、最善の策を作っている」
テスタロッサが私と交戦している最中、後方に待機していたエリオには策を授けてある。
エリオの持つ電撃を使い、小さな結界を作り出すというものなのだが、いかんせん時間がかかりそうなため、私が先行して時間を稼いだのだ。
後ろを見ると、どうやらエリオはまだ時間がかかりそうだ。しかし、それをゆっくり見守っている場合ではなくなった。
「くっ! 何をしようとしているかは知らないけれど、やらせない!」
目の前の私を無視し、テスタロッサは結界を展開中のエリオの元へと駆ける。
さすがに速い。とてもではないが追いつける速度ではない。
「エリオ、ごめんなさいっ!」
大剣を掲げ、無防備なエリオに向かい、叩きつける。
「いえ、謝るのは僕のほうです」
その瞬間、テスタロッサの四肢を稲妻が蔦が締め付ける。
絡み付いた一本一本に至るまで、エリオの魔力が行き届き、恐ろしいまでの拘束力を生み出している。
「な、何、これは!」
「僕の体から発する電気を、確かな形にまとめ直して結界を形成する……。今までの力ではこんなこと出来ませんでしたがっ!」
力強く雷が唸る。その度にテスタロッサを締め付ける強さは増し、苦痛は倍増される。
「あああっ!!」
「フェイトさんっ! 降参してください、これ以上は体が持ちませんよ!!」
「……誰に言ってるのかな。そんなこと」
空気がスッと変わる。
まるで塗り替えたかのように稲妻の色が変わり、テスタロッサを拘束していた部分から腐食していく。
脆く崩れ去ったそれを、何事もなかったように引きちぎる。
「拘束具に雷を使うのはいいけど、私には通用しないよ。同じ属性の人間に使うのは、ちょっと考え物だね」
「フェイトさんも雷使いでしたね……迂闊でした」
「さ、降参するか、それともまだ頑張るか。どうする?」
突きつけるザンバーには微塵の迷いもない。
エリオを守る戦いでありながら、我を通すためにはその本人すらも容赦なく斬ろうというその精神、感心するほどに真っ直ぐだ。
だが、私はそうじゃない。私が教えた作戦は、でたらめでその場しのぎで、まったくもって優しくない。
「もう一つ謝ることが出来ました。僕は、少しだけフェイトさんを騙してます」
「えっ?」
「蔦を切った程度で、僕の結界が断ち切られたと思い込ませてしまいました」
「っ!」
所詮蔦など結界の一部でしかない。腐り落ちた雷を乗り越え、更なる雷が渦を巻き、テスタロッサを取り囲む。
この結果いの目的は拘束などではなく、一人で作れる陣形を整え、一撃で勝負を決めることだ。
「一撃必殺っ!」
結界の術者であるエリオに向かい、雷撃の加護が降りる。
通常の力に加え、さらに結界で蓄えていた分の魔力を溜め込んだストラーダ。眩しいほどの閃光がほとばしっている。
「うおおおっ!!」
光を纏い、超高速の一撃が迫る。いつぞやの模擬戦で見せた時よりも、さらに速く。
この距離、この威力ならば外すことはないだろう。
結界を中心に爆発が起こった。立ち込める煙の中、私は必死に中を見ようと試みる。
果たして、エリオの一撃は決まったのだろうか。心の焦燥とは裏腹に、煙は中々晴れない。
「……あの状況でかわせるはずはない。分かっているのだが、何故か不安だ」
やがて、少しずつ晴れた煙の中から、二人のシルエットが見えてきた。
「エリオっ!」
エリオの手からは血が流れ、全身に細かな傷を負っている。
大してテスタロッサは、少々ジャケットを乱した程度で、平然としている。
「プラズマ・サンダー・カートリッジ・ブレイク。結界の中の電撃が自分のものだけだと考えていたのが敗因だね。私のサンダーが入り込んでいることに気づかなかったの?」
「はぁ……はぁ! くっ、ストラーダ!!」
全壊とは言わないまでも、ストラーダは殆どボロボロで、柄の部分がなんとか残っている程度だ。
私のレヴァンティン同様、カートリッジに雷の爆弾を仕込まれ、そのせいで爆発したのだろう。
「中々頑丈だね、ストラーダ。だけど、どのみちそれじゃカートリッジロードもできないし、武器として使うこともできないね」
再び、ザンバーを突きつけるテスタロッサ。
駆け寄って助けてやりたいが、私には既に抗う術がない。
「そうですね……もう、こうなったら僕は加速もできないし、攻撃だって……」
「なら、早く降参したほうがいいんじゃない?」
「でも……忘れてませんかフェイトさん」
「ん?」
「僕もあなたと同じ雷使い、あなたに出来ることは、僕にだって出来ることなんですよっ!!」
「ま、まさか!」
エリオの手が天空高く掲げられ、雲を散らすような大声と共に振り下ろされる。
「ブレイクッ!!」
カートリッジブレイク。テスタロッサが私に施行し、エリオにも同様に放った術だ。
二度、それを目にし、さらに原因さえ分かってしまえば、あとは実演するのはたやすい。特に、学習能力の高いエリオならば。
「バルディッシュが……っ!」
小爆発。規模は小さいが、的確にバルディッシュを潰したはずだ。
カートリッジ部分を中心に、内部から大きく裂傷が走っている。
「どうですか? これで僕もシグナムさんも、フェイトさんも一緒です」
ボロボロになったバルディッシュをスタンバイ状態にし、テスタロッサは我々を睨みつける。
「デバイスがなくなったくらいで、それが何……? 私にはずっとずっと積み重ねてきた戦闘技術がある!」
既に結界は効力を失いつつある。もはや蔦で絡めとることも出来ないだろう。ならば、こちらは攻めるのみだ。
結界を外から眺めていた分、私の体力は回復している。それはこの戦いにおいて、かなり有利に立てる条件となるだろう。
エリオとの対峙に集中しているテスタロッサの後ろから、一気に距離を詰める。
「テスタロッサ、お前の敵はエリオだけじゃないぞ」
「シグナム!」
テスタロッサは裏拳の形で私を振り払おうとするが、その程度で怯むわけがない。逆にその腕の勢いを利用し、地面に叩きつける。
「ぐっ!」
だがそこは素早いテスタロッサ、追撃を入れるよりも前に立ち上がり、後方へと飛び、距離を開こうとする。
逃がすわけには行かない。後ろに飛んだテスタロッサに向かい、再び私は距離を詰める。
直線的な私の動きに、策はないと感じたか、はたまた迎撃が難しいのか、テスタロッサはさらに後ろへと飛ぶ。
「エリオッ!」
「はい!」
私は一人ではない。小柄な体格を生かし、エリオはテスタロッサの着地する瞬間を狙い、足をしたたかに蹴りつける。
「くっ! この!」
慌ててエリオを振り払うが、その時には既に私が眼前へと距離を詰めている。
コンビネーション、訓練で得た一体感から、私たちは念話なしでのシンクロがほんの少しできるようだ。
エリオの次の動きを予測し、それに合わせて動いてもいい。作戦をその場で練らずとも、私たちは戦えるのだ。
「地に伏せていろテスタロッサッ! 既にお前の勝利する未来など存在しない!!」
体重を乗せた、渾身のストレート。だが、それを持ってしても、まだテスタロッサの牙城は崩れない。
確かに一撃は加えたのだが、感触が軽すぎる。
テスタロッサの常軌を逸したスピードが、攻撃の瞬間、体を守っているのだろう。ふわりと浮かんだその身体は、まるで柳のようだ。
「あなたこそ地に伏せていればいい。そうすればエリオも私も幸せだった! 私とエリオのいる世界へ……入ってこないで!」
反撃の蹴りだった。細い足から、恐ろしいまでの威力が生まれ、防御する私の腕を軋ませる。
激痛と共に感じる風は、ギトギトとした熱い熱風だ。怒りや恨みの篭った、重苦しい風だ。
「ぐぁあ!!」
耐え切れず、私は飛ばされる。地面に叩きつけられた感触が、私に痛みと、そして焦燥を与える。
私はいい、だが、エリオは格闘術に関しての知識が薄い。体も未成熟だ。こんなものを受けては、一撃で肉体が悲鳴を上げるだろう。
立ち上がれ───そう願う私の心とは裏腹に、足は重く、攻撃を受けた左腕はどうしようもなく痛かった。
「エリオ、少し痛いけど……これは私たちの幸せのためなんだ。我慢してね」
テスタロッサの歩みがゆっくりに見える。今ならまだ間に合うはずだ。
動け、動け。無事な右腕を使い、体を起こす。だが、足が上がらない。
「ただの一撃で……何故、ここまで弱る!? 私が積み重ねてきた年月は何だ、享楽のための幾星霜ではなかったはずだっ!」
「無駄だよ。私の電流があなたの筋肉を支配している。腕が動いても、足はまだまだ動かないよ」
電流、そんなもので私は動けなくなるほど弱いのかっ!
情けなくなるのと同時に、その程度の障害を乗り越えられなければ、この戦いに勝利することなど出来ないという、強い意志が目覚める。
「……エリオ、最後に聞くけど、降参はしないの?」
「フェイトさん。僕はまだ子供ですけど、それでも、貫き通さなくちゃいけないことがあるって言うことは知っている! それは今だ! ここで降参なんかしたら、僕は男としても、騎士としても終ってしまう。それは、フェイトさんと過ごしてきた日々を否定することでもあるんですっ!!」
「エリオ、それは」
「だから、僕はあなたを倒す。そして、それから改めて迎えに行きます。強くなって、フェイトさんを守るために!!」
「……そう、なら、私はそれを止めないとね。私は、ずっとエリオのことを守って生きたいからっ!」
交差する影。拳と蹴りとが混ざり合い、小さな体が吹き飛ばされる。
だが、いくら傷つこうと立ち上がり、そしてまた挑んでいく。エリオは、本当の意味で騎士だった。
「(私は何をしているっ! 目の前で傷ついていく者を前に、いつまで地に伏せているつもりだっ!!)」
体中を炎の熱さが満たしていく。腕も、足も、全てが熱い。燃え盛る炎が、私に生きるための胎動を伝えてくれる。
動かないというのならば構わない。自らの炎を持って、その両足を断ち切り、自らの炎を持って、大地を踏みしめればいいことだ。
「うおおおおおお!!! 炎熱昇華ァ!!」
揺らめく景色、燃える体。だが頭は水を打ったように冷ややかだ。
それが私、剣の騎士シグナムのあるべき姿。守護のために生まれたものの取る形だ。
「私の電撃を破って来るなんて、さすがだね。でも、それからどうするの?」
「知れたこと、我が一撃を持ってお前を粉砕するだけの事だ」
全てはこの一撃の為に。
エリオの作った雷撃と、私を包むこの炎、時の流れで消え去らぬうちに、打ち込まなければならない。
「これで仕舞いだ。エリオ、最後の力を貸してくれ」
吹き飛ばされ、傷だらけになっても、エリオは私を見ると笑いかけてくれる。
その思いに応えられなくて、何が騎士か。
「残念だけど、エリオの電撃はもう打てないよ。何をする気か知らないけれど、あれだけのダメージのある状態では……」
「必要ない」
「え?」
「だってそうだろう。私たちのいるこの場所は、エリオが結界を作った場所だ」
「ば、馬鹿なっ! 結界はもう二回も効果を発揮しているのよ。もう力なんてあるはずが……」
「侮るな、そして思い込むな。この結界、はじめからお前を閉じ込めるためでも、攻撃するために作ったのでもない」
雷撃が私の右手に集中していく。
バチバチと音を立て、私の炎と相まっていくそれは、私と、エリオと、そしてもう一人。
「雷撃を放出していたのはエリオだけではなく、お前もだ。それを集め、吸収しておくためにこの結界を作った」
「そ、そんな! そんなことって!!」
先日生み出した、私たちの最高の技。
今、私の炎とエリオの雷が融合し、私の右拳へと降り立つ。
「テスタロッサ、お前は積み重ねた戦闘技術と言ったな。たかだか十数年鍛えた程度のお前と、戦火の中、この身一つで駆け抜けてきた私……。果たしてその技術、私の前で誇れるほどのものだったのかな」
「くっ!!」
空へと逃げるテスタロッサ。当たらなければいいと考えたのだろうか。だとしたらあまりにも浅い思考だ。
「聞こえるのならば聞いておけ。距離など問題ではない。融合した二つの心の前に、乗り越えられない壁などない」
エリオのほうを横目で見る。傷を押して、私に力強い握り拳を見せてくれていた。
小さく頷き返し、再び心を集中させる。
「受けろ、雷撃───動くこと雷霆の如し(シグナムパンチ)」
大気を劈く爆音が響く。
どれだけ離れていようとも関係なく。どれだけ防御を固めようとも関係がない。
テスタロッサは、羽を?がれた鳥のように、大地へと落ちていった。
「フェイトさん!」
それをしっかりと受け止めるエリオ。だが、その体は傷だらけだ。抱えきれるはずがない。そのまま地面に尻餅をついてしまう。
「ぐ……ぐあああ、重いっ!」
「……し、失礼なこと言わないの」
頬を赤らめながらも、テスタロッサは嬉しそうだった。
釣られて私も、少しだけ笑う。
「二人とも、すごく強かったよ。本当に、強かった……」
「はい、フェイトさんと戦うために、二人で頑張りました」
「ああ、我々は頑張ったぞ。何せ相手がお前だったからな。まったく苦労させる」
「もうすっかりシグナムがお師匠さんみたいだね。あはは、ちょっと悔しいなぁ」
「し、師匠? やめてくれ、私は人にモノを教えるなんて柄じゃない」
「いいじゃないですか、師匠。僕はずっとそう思ってましたよ」
「エリオまで……。まったく、仕方のない奴等だな」
不思議と、後を引く嫌な空気は残らなかった。
全力を出し切ったためか、私たちは非常に疲れ切っていて、後から来たシャマルに回復してもらうまで動けない始末だった。
何はともあれ、勝利を収めたのだ。これからは、色々なことが変わっていくだろう。
今は、休むことだけに専念したい。