その後、なのはによって布かれた『エリオ独占禁止法』により、テスタロッサはエリオに対して過度な要求をすることが出来なくなった。
 しかし、そうは言ってもあのテスタロッサだ。隙を見計らっては何かとエリオにちょっかいをかけている。
 ……私は、まだエリオの師匠扱いとなっている。
 テスタロッサとの一戦の後も、エリオは私との鍛錬を続け、部屋にも泊まるようになり、より一層、仲が深まった……。聞こえはいいが、こちらとしては色々と困る。
 
「シグナムさん、どうしてもここのシーンが埋まらないんですけど……」

「ああ、それはバグだからな。修正パッチを当てなければならない」

 共同生活とまでは言わないが、こうも一緒に居る時間が長いと、その、意識してしまうわけだ。
 エリオは子供だというのに、何故か時たま大人びた表情を見せて、心をざわつかせるし、なにより日々、少しずつ成長しているのが見て取れてしまう。

「(なるほど、テスタロッサがご熱心なのも仕方ないのかもな)」

 そんなことを考えてしまうことが多くなる。
 口には出さないが、私も相当エリオのことを気に入っているということだ。まったく、私としたことが。

「あ、そう言えばフェイトさんが休暇を利用して一緒に遊びたいって言ってたんですけど」

「ん? ああ……そうなのか」

「泊まりになると思うから、外泊届けを書いて欲しいって渡されたんですけど……どうすればいいんでしょうか」

「……ああ、話の顛末は見えた。エリオ、行くと大変いやらしいことが待っているぞ」

「あはは、まさかフェイトさんに限ってそんなことあるわけないですよ」

 エリオの中での優先順位は、まだまだテスタロッサが一番のようだ。
 信頼し、愛し、今のような要求にも応えようとしてしまう……。

「なぁ、エリオ。おかしな話なんだが」

「はい?」

「私は、その、お前の師匠……だな。それで、その……好意は、どうだ?」

「はい、シグナムさんのことは大好きですよ」

 ぐはぁ……。今までについたことのないため息と一緒に、体中が熱くなるのを感じる。

「じゃあ、テスタロッサのことはどうだ?」

「はい、フェイトさんのことも大好きですよ」

 ガクッと崩れ落ちてしまう。
 どうにもエリオは、好意というものをあまり理解していないようだ。

「……聞き方が不味かったな。恋人にするような、好き嫌いの話だ」

「え? それだとしても何も変わりませんよ」

「ダ、ダメだっ。そういうものは一人を選ぶものなんだ」

「え〜〜。でも、好きっていう気持ちはあるのに、それを誤魔化すことなんて出来ませんよ」

「好きにも順序があるだろう。一番好きな一人と付き合えばいい」

 だけど、その一番が自分でなければ……。
 む、これは結構きつい。

「……僕、思うんですよね。例えば僕がシグナムさんをそこで選んだとして」

 いきなり自分の名前が出されてドキッとする。
 ええい静まれ。乙女でもあるまいし、今更こんなことで恥らうな。

「じゃあ選ばれなかったフェイトさんはどうでしょう。……僕は嫌ですよ、フェイトさんが悲しいのも、シグナムさんが悲しいのも」

「む、確かにそれはあるが」

「僕だって辛いし、みんなだって辛いのに、どうして一人を選ぶんですか。そんな理論おかしいですよ!」

 力説しているエリオを見ていると、自分の意見がだんだんと色をなくしていく気がする。
 私の意見は、大衆の意見だ。すなわちそれは目立たぬように着色されたものでしかない。
 だがエリオは、そこに奇抜な色彩を持って一石を投じた。……おかげで私の頭はパンク状態だ。

「そう、だな。うん、難しいが……私は、それでも一緒にいたいと思うし、テスタロッサもそうだろう」

 勝手に人の意見まで代弁してしまったが、恐らくはそうだろう。
 アレが捨てられて黙っているはずがない。その時は全力全開を持って、相手を叩きのめすに決まっている。
 ならば、ここは妥協したほうがいいのではないだろうか。

「……そう考えると、独占禁止令というのは上手いものだな。なのはのヤツ、狙って作ったのか?」

「あはは、でも僕なんかを独占したいなんて考え、普通の人はしませんから、それはないですよ」

「ここに一人例外がいるんだがな。ふん、いいさ、だがエリオ、これ以上競走馬を増やすなよ。私は何とでもするつもりだが、人によっては刺されるぞ」

「はい、分かりました」

 物分りのいい返事だ。ご褒美とばかりに頭を撫でてやる。
 こうすると、まるでネコのように目を細めて、気持ちよさそうにするのだ。それがたまらなくかわいい。

「シグナム、独占禁止だよ」

「なっ! テスタロッサ、いつの間に入ってきた!?」

「普通に入ってきましたよ、今。それだけ夢中になってたんだよね」

 やけに挑発的なテスタロッサの視線に、私が出来ることといったら、目の前のエリオを抱え込んでやることくらいだ。

「わぷっ!」

「ちょっとシグナム! あなたの胸じゃ圧迫死しちゃうでしょ!」

「人の胸を殺人兵器のように言うなっ! お前だって人のことは言えないだろう、休暇に何をするつもりだったんだ?」

「うっ……。エ、エリオ! そういうことは報告しないでいいの!」

「ぷはぁ! だ、だってフェイトさん見るからに怪しかったんですもん!!」

「そんなこと言われても……平然とあんなこと言えたら、それこそ病気だよ」

 私が見ていない間、一体どんなことをしていたのだろう……。

「とにかくだ。とにかく、独占は禁止だぞ、テスタロッサ。休暇うんぬんのことも、考え直せ」

「ん? じゃあシグナムも一緒に来れば問題ないんじゃないかな」

「……それはいい手段だな」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ二人ともっ!」

「ふん、こうなったのもお前の選択だ。つべこべ言わず受け入れろ」

「ライトニングの隊長、副隊長が、全力を持ってエリオを鍛えるからね」

 かくして、エリオは二人の心を射止め、幸せな生活を築く……。
 の、はずなのだが、どうにもエリオは手癖が悪いのか、それともフェロモンでも巻いているのか、再びこういう事態を招く。まったくもって、手のかかるヤツだ。
 だが、それはもう少し後のこと。今はこの幸せを、精一杯かみ締めさせてもらうとしよう。



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